――信仰はただ心の中に。偶像はそこに在るだけ。
「どうして、そんなことを?」
「それは……」
――神が神であることの証明を。
そう答えかけて、しかしルフレスは口をつぐんだ。
「……分かりません」
そして、消え入りそうな声で言った。
「私には、分からないんです」
「……そうか」
と、アルフは呟いた。
それ以上、何かを言うことはなかった。
ただ、優しく微笑みながら、静かにルフレスを見つめていた。
ルフレスは顔を伏せた。
そしてそのまましばらく俯いていた。
やがて顔を上げると、彼女は笑った。
その笑顔に、もはや迷いはなかった。
「私は、私の心に従って生きます。それがきっと、正しいことだと思うから」
「ああ」
「だから、私はこれからもずっと、神様を信じ続けます」
ルフレスの言葉を聞いて、アルフは満足げな表情を浮かべた。
「それでいい」
そう言って、アルフは立ち上がった。
そして、手を差し伸べる。
「行こう、ルフレス」
差し出された手を、ルフレスは見つめた。
この手が自分に勇気を与えてくれたのだと思った。
そして、この手が自分を導いてくれるのだと確信した。
「はい!」
力強く答えると、ルフレスはその手に自分の小さな手を重ねた。
炎が彼らを包み込む。
「この炎は僕らを永遠にする。このまま一緒に……」
―――ずっと一緒だよ。
炎に包まれて、二人の影が一つになった。
そして彼らは、燃え尽きるまで寄り添っていた。
***
「…………ここは?」
目を開くと、そこには真っ暗な闇が広がっていた。
自分は何をしていたのか。思い出そうとすると頭が割れるように痛む。
まるで、何か大切なものを忘れてしまったような喪失感があった。
「……僕は一体……」
ふらつく足取りで立ち上がる。
その時だった。
『……!』
遠くの方で声が聞こえた気がした。
少女の声だ。誰かを呼ぶように何度も叫んでいる。
「誰なんだ?君は……」
呼びかけても返事はない。
それでも、彼は声の聞こえる方へと歩き出した。
なぜだろう。とても懐かしくて愛おしい気持ちになる。
――待っててくれ、今行くよ。
心の中に浮かんだ言葉を、彼は無意識のうちに口にしていた。
そして、走り出す。
暗闇の中を駆け抜けていくうちに、彼の身体は光を帯びていった。
それは、いつか見た夢の続きのように。
そして、再び出会う。
運命に導かれるように。
彼らの物語は、まだ始まったばかりなのだから。
(完)